肉ばなれとは、スポーツ活動などで筋肉が急激に伸ばされた場合や筋力の収縮に耐えきれなかった場合に発生する筋肉の損傷の総称です。
病院などの医療機関では、筋断裂、筋膜断裂、筋損傷と呼ばれます。また、筋肉の損傷は、発生時に加わる外力により、直達外力(筋に直接加わる外力)による『筋打撲』と介達外力(筋の収縮力や牽引力による外力)による『肉ばなれ』として表現されます。
スポーツ活動中に発症することが多く、『ふくらはぎ(腓腹筋)』や『太もも(大腿四頭筋、内転筋、ハムストリングスなど)』に多く発生しますが、腕、脇腹、背中、股関節周辺などにも発生します。
自覚症状があまりなくても肉ばなれを起こしていることもありますので、適切な判断が必要です。
肉ばなれの主な症状は、損傷の程度により患部の痛みや腫れ、熱感、機能障害があらわれ、力が入りにくく、圧痛(指で押した時の痛み)があります。また、歩行や運動を続けることが困難となります。
更に、時間の経過とともに皮膚に内出血があらわれます。
中には、筋肉が断裂する音を感じる場合や患部が凹む場合もあります。
肉ばなれが発生する要因には
筋力低下・筋力不足
筋肉の柔軟性低下・アンバランス
筋肉の疲労
負傷後のスポーツ復帰の時期
技術の不足
不十分なウォーミングアップ・クールダウン
気温(寒冷など)
スポーツ環境などなどがあげられます。
筋損傷の程度による分類
【第Ⅰ~Ⅲ度】
一般に、筋損傷の程度により完全断裂と部分断裂に分けられます。
完全断裂の発生頻度が高いといわれていますが、実際には、筋肉が損傷した後に病院などの医療機関など受診せず正しく判断されないまま自然経過している部分断裂損傷が多いと思われます。
第Ⅰ度【筋肉が引き伸ばされた状態】
筋繊維の断裂は認められないが、筋肉が伸ばされることにより細胞の破壊などがみられます。
筋力低下や可動域制限を起こすことは少ないが、運動の際に患部に不快感や違和感、痛みがあります。
第Ⅱ度【部分断裂】
一般に肉ばなれと呼ばれるものです。腫れと圧痛(押した時の痛み)がみられ、筋肉の収縮は可能であるが、痛みのために収縮させられないことがあります。患部に凹みを確認できるものもあります。
第Ⅲ度【完全断裂】
患部に凹みがあり、強い圧痛があらわれ、断裂している部分が縮み膨らみます。筋肉が収縮できない状態であり、受傷した数時間後に患部又はその周辺に内出血があらわれます。筋肉が一度に断裂することは少なく、肉ばなれを繰り返したあとに発生すると考えられています。
画像診断(MRI)による分類
Ⅰ型:出血所見のみが認められる出血型
Ⅱ型:筋腱移行部、とくに腱を包む膜の損傷である腱膜損傷型
Ⅲ型:筋腱付着部損傷型
頻度は、Ⅰ型とⅡ型が多くみられ、Ⅲ型は比較的まれです。
それぞれのタイプの予後は、Ⅰ型が1~2週でスポーツ復帰が可能となるが、Ⅱ型ではスポーツ復帰に4~12週を要します。また、Ⅲ型は手術による治療を検討しなければなりません。
肉離れの応急処置は
①R=REST(安静)
②I=ICE(冷やす)
③C=COMPRESSION(圧迫)
④E=ELEVATION(挙上)の
『RICE』が基本です。
① R=REST(安静)
肉ばなれが発生した部位を安静にすることが必要です。
負傷した後に、そのまま運動やスポーツを続けると症状は悪化しますので注意が必要です。
体重をかけて痛みがある場合には松葉杖を使用することも大切です。
② I=ICE(冷やす)
痛みの軽減、腫れや内出血などの炎症を抑えるために、患部やその周辺を氷などで冷やします。負傷した後、早急に冷やすことで、腫れを抑えることができます。腫れは痛みの原因になりますので、患部を冷やすことが肉ばなれの症状を抑えることに効果的です。
約15~20分を目安に冷やし、一度冷やすことを止めて、再び痛みが出てきたら再度冷やすことを繰り返します。
ただし、冷やしすぎると凍傷を起こしますので注意が必要です。
③ C=COMPRESSION(圧迫)
腫れの原因となる内出血を抑えるために、患部を弾性包帯やサポーター、テーピングなどで圧迫固定し、血液の流れを止めて腫れや内出血を抑えます。
ただし、過度な圧迫はよくありませんので、適度な圧にて圧迫することが大切です。
④ E=ELEVATION(挙上)
腫れや内出血を抑えるために、患部を心臓より高い位置に挙げておきます。ベッドなどで寝た状態で、患部を高く上げます。布団やクッションなどを利用して、心臓よりも高い位置になるように調節します。
約24時間を目安に患部を心臓より高い位置に挙上しておきます。
肉ばなれは、手術を必要とすることは少なく、一般的に保存療法が行われます。
受傷の後、初期には24~48時間を目安に患部を冷やし、弾性包帯、サポーター、テーピングなどで圧迫固定を行います。
その後、症状に合わせて圧迫固定を外し、関節自動運動、ストレッチ、電気療法、温熱療法などを開始し、軽い運動から始めて行きます。
スポーツ復帰への目安は、運動前後のストレッチをした時の痛みの消失や疲労感、瘢痕組織(しこり)の有無、筋の緊張感などの症状により判断します。損傷した筋肉周辺の関節に動きの制限がないことが大切です。
肉ばなれの再発防止や予防には、すぐに激しい運動を行わず運動前に十分なウォーミングアップを行うことと、運動後はしっかりクールダウンを行うことが重要です。また、筋肉のストレッチなどをバランスよくおこない筋力や柔軟性のバランスを整えることが大切です。
肉ばなれは、再発が多い損傷であり再発予防やリハビリテーションをしっかり行わないと、筋肉の組織が元の状態にもどらず『肉ばなれがくせになる』というような状態になり、同じ部位の肉ばなれを繰り返すことも少なくありません。スポーツ復帰のために治療期間が十分にとれないと、再発損傷を招きますので、全治、完治するまでしっかりリハビリテーションの時間をとることが大切です。肉ばなれは軽傷として扱われやすいですが、スポーツ活動を続けるうえでは重傷度の高い障害ですので注意が必要です。
競技復帰には、その競技特性、ポジションなどを考慮し、その選手に必要な『動き』を十分に獲得してから競技復帰させることが再発防止に重要です。